窓辺の二人

色にいでけり?我が恋は



 「俺の忍ぶ恋は色に出てない?」


 なんて言いながら、急にあいつの真剣な顔が私の目の前一杯に広がる。触れるだけでそっと離れた。
 短い、キスだった。

 「な!なななななっなぁにすんのよっ?!」
 「なげけとて、つきやはものをおもわする。かこちかおなるわがなみだかな」
 「えっ?はぁ?」
 「俺の一番好きな歌。俺の場合、月明かりっつーよりは隣の家の目の前の部屋からもれる光、かな」
 「ええ?ちょっと!」
 「じゃ!また明日」
 「待ちなさいよちょっと!」

 言うだけ言って笑顔で窓から出て行った。
 どういうことよ?急に、何なのよ、もう!

 
 次の日、授業で新しい和歌を習った。
 西行法師(さいぎょうほうし)の恋歌。
 
 『嘆けとて 月やはものを思わする かこち顔なる わが涙かな』
 
 先生が、黒板に書いたその歌を訳す。

 「『嘆けといって月が私に物思いをさせるのか。いや、月にかっこつけて涙を流す私である』西行法師が、旧友を思って書いた歌だ。昔の想い人、つまり好きな女性を思い出してる、という説もあるな。」

 歌を書き写そうと前を見ると、アイツの頭が目に入った。
 
 …熟睡しすぎ。
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