窓辺の二人

気になる存在?


 「この、たまのおよたえなばたえね、ってのがわかんねーんだよ」
 「あぁこれ?よぉーは、命よ絶えるなら絶えてしまえ!あなたへの忍ぶ恋が忍びきれなくなる前にって意味」
 「忍ぶ、恋?」
 「そ。んー、きっと人妻にでも恋したんじゃないの?」
 「人妻…ねぇ」
 「あ、今、喪服とかの和服美人想像したでしょ?」
 「なんだそりゃ」
 「え?よく男の人がそぉゆーの好きってテレビとかで聞くから」
 「まぁ好きな娘の着物姿はいいかもな」
 「おっ!まさかあんた好きなコいんの?」
 「まぁな」
 「へぇ~!あんたにも春はやってきてんのねぇ」
 「俺だって忍ぶ恋の一つくらい」
 「忍ぶ?あ、じゃあ片想いだ?彼氏持ちとか?」
 「んー片思いは片想いだけど彼氏は…いねーだろ、たぶん」
 「へぇ~、うちの学校?」
 「ああ」
 「おぉ!同じ学年?それとも先輩?後輩?」
 「同じ…クラス」
 「…え?」

 びっくりした。こいつに好きなコがいて、それも同じクラスだったなんて…。

 「ま、いいんだよ、俺のことは」
 「えー?気になるよ、誰?誰?」

 ここは友達として応援しなきゃ。

 「もういいだろ?早くしないと和歌の課題終わんないだろ」
 「でもさぁ、応援したいじゃん?」
 「お前にはされたくねえしなぁ」
 「へ?なにそれ?」
 「気にすんなって。それより好きな和歌、お前どれにした?」

 くそぅ、はぐらかされたわ。

 「なによもったいぶっちゃって。えーとね『忍ぶれど色にいでけりわが恋は物や想うと人のとうまで』かな」
 「訳は?」
 「忍んでいる恋なのに、顔色が悪いよ?恋でもしてんの?って人が聞くほどになってしまった…って歌」
 「お前、恋の歌好きな?」
 「んー、百人一首が好きんなって、そしたら恋の歌が多くて好きになってたんだよね」
 「気がついたら好きになってた…か」
 「ああ、そんなもんかも…って、どうしたの?」

 急にあんまり深刻そうな顔してるから、思わず覗き込んだ。
 今思えば、それが失敗だったのかもしれない。
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