来る来る廻る


「いらっしゃいませ」

もしかして? リコ?

客が来る度に、俺は玄関先が気になった。

と、翔さんが俺の耳元で囁いた。

「もうちょっと落ち着いて仕事しなきゃ、座っている時は、その席に集中、なっ、頼むよ!」

優しくハスキーな低音が耳に響いた。

「はい、すいません、気を付けます」



いつ夜明けが来たのかもわからない。

時間があって無い世界で…朝の6時を迎えた。

閉店時間になり、その日、リコの顔を見る事はなかった。

久し振りの緊張の連続に、身も心も疲れ果て、俺はタクシーに転がり込んだ。

表通りにタクシーは止まり、細い路地を入って行く。

相変わらず、嫌な臭いが鼻をついた、が…これを嗅いでやっと家に帰って来た気がする。

俺はいつもながら、ゴミばけつを避けながら歩いた。

スナック「愛」 色褪せた看板はそのままだった。

店主の女王は嫁に…その子供、王子は未だこの臭い場所に身を置く。

お袋……長い間会っていなかった。

何の連絡もないって事は、案外上手くやってんだな、あのジジイと……。

埃の積もったカウンターを過ぎ…きしむ階段上がり…俺は万年床に倒れ込んだ……。

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