来る来る廻る
訳もなく責められた親父は、目を丸くして答える。
「そこに書いてある通りだろうよ。空き物件なんだから、もう帰って来ないだろうし、どこに行ったって、そんな事知っちゃいねえよ」
親父は背を向け、嫌みのような大きな音でドアを閉め、自分の店に戻った。
一昨日? 何て事?
もう少し早く…引っ越す前に来ればよかった。
店長、もうお金は諦めなさい…と後ろを振り返ったら、吉田ひなこが!地面にへたり込んでいた。
汚い臭いどろどろした地面の上で…蹲って…声出して…泣いている。
「…店長……」
それは、あまりにも細い肩だった。
あんなに肉が…肉がこんもりと付いた肩と腕と背中だったのに…男一人の力によって、こうまで変わってしまうのね。
「店長、しっかりして下さいよ。私も出来るだけ、あちこち当たり、佐々木の居場所探してみるわ。でも、もうお金は諦めた方が…多分…あいつに返せる充てなんてないと思うんだけど……」
吉田ひなこが、しがみついてきた。
真剣な、必死な眼が私を捉える。
?これは…ただ事ではない?
そんなに…多額なお金なの?
「野田さん…恥ずかしい…情けない話なんだけど…私…妊娠してるの…」