悲しみと魔法と、そして明日と
西の地南部周辺で悪さを働く五十人規模の盗賊団に普通に暮らす人々が束になって戦いを挑んでも、結局は死にに行くようなものであろう。

いくらナツがこのガーデンで幸福とはいかないが、最低限以上の暮らさせてもらっている街人にとって支持されている有能な統治者でも、所詮は他人。

他人の為に命を張る前に自分の命を大切に、一瞬を生きて行きたい。それは人間の本能だろう。己に力がないとわかっている街人達にとっては当然だ。

ただ、リクにとっては利害が一致したようだ。

「こんなにチャンスが早く回ってくるとはね。・・・この事件、餌にさせてもらう」

先ほどまで爽やかな青年はもうそこには居なかった。その目には妖しい光りが渦巻いている。

「・・・妹・・・か」

まるで別人のように変わる彼の表情からは、いま何を思うのか…それは推し量ることは出来そうもない。
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