Magical Moonlight
「な…なぜ、こんなことを…」

彼の手が、あたしに伸びる。

あたしは、彼の前にしゃがみこんだ。

「ダメじゃないか、こんなことしちゃ…」

血まみれの手が、あたしの頬に触れる。

「いい子だから、自分の家にお帰り、キャシー…」

そう言って、彼は倒れ、動くことはなかった。


―彼は知ってた。あたしが犬のキャシーだってことを。


あたしは、彼の体をゆすって、呼びかけた。

「ごめんなさい…ごめんなさい!」

謝っても、彼が動くことはない。


サイレンの音が聴こえる。

女が、警察を呼んだらしい。

“ここから逃げることはできない”

あたしはそう思った。そして、…彼の脇腹に刺さっていた包丁を抜き取り、自分の胸に突き刺した。


『これで、
 彼と一緒にいられるよ』

そんな声が、どこからか聴こえたような気がした。
< 21 / 36 >

この作品をシェア

pagetop