幸せは蜜の味

出会い

「それは500円だけど、ちょっと高いかしら?」
「えっ?」

500円?
こういうのって、1000円くらいするんじゃないかな。
いくらフリマだからって…この生地、絶対高いよ。

「これっ、買います!」

慌てて財布を取り出して、ちょうど持ってた500円玉を差し出した。
私の勢いにビックリしてた妊婦さんは、にっこり笑ってお金を受け取ってくれた。

「ありがとう。じゃあ…コレはオマケね」

妊婦さんは、小さな手提げ袋にケータイケースを入れてから、オマケだとストラップも入れてくれた。
ケースに合う、桜の花のストラップ。

「あの、いいんですか?」
「いいのよ。実はね、貴方が最初のお客様なの。記念にもらってくれないかしら」
「そういう事だったら…」

私が最初の客?
…そうか、ココ、端っこだから、あんまり人目につかないんだ。
私ってツイてるかも。
せっかくだから、もう少し何か買っていこうかな…。
そう思ってシートの上を眺めた私は、妊婦さんの側にちょこんと座る小さなテディベアを見つけた。
ちょっとスリムな、青色のチェックの布で作られた手のひらサイズのクマ。
首にはリボンじゃなくて、ネクタイをしている。

「…この子に、興味がある?」

気付かないうちにじっと見てたみたい。
妊婦さんが、そっとテディベアを手のひらに乗せて私に見せてくれた。
…よく見ると、目つきがちょっと悪い。
ネクタイもしてるし、男の子なんだろうな。
そう思うと、ちょっと可愛く見えてきたかも。

「もし…気に入ったなら、この子を連れて行ってくれないかしら」

妊婦さんは、ちょんちょん、とクマの頭を撫でて微笑んだ。

「この子は、幸せを呼ぶクマなのよ」

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