夏恋
内藤が起き上がって俺を睨むと、やばい、ただそう思って愛子の手を取り走った。

内藤が叫んでいるのが聞こえる。


「広ちゃん…っ」

「良いから走れっ」


愛子の手は汗ばんでいて、後ろを振り返ってみると目に涙をいっぱい貯めているのが解った。


「はぁ…疲れた」


空き教室に入り込み、窓を開ける。

夏日が差し込み、風が入り、埃っぽさは一気になくなった。

愛子はまだ肩で息をしている。


「大丈夫か?」

「うん…」

「…」


愛子は唇を擦って真っ青な顔をしていた。


「愛子、やめろ」

「だって…だって」

「解ったから」


優しく抱きしめると、愛子のシャンプーの匂いでいっぱいになった。



愛しいと、思った。
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