ケータイ恋愛小説家
あたしは慌てて大輔君の腕の中から逃れた。


一方、大輔君の方はこの状況を特に気にも留めていない様子だ。


「おかえりっ。ちょうど良かったじゃん。オレ今からバイトなんだ。ヒナちゃん、お前に用があんだってさ」


ドアに鍵をかけながら、蓮君にそう言っていた。


「んじゃ。ヒナちゃん、またね」


大輔君はあたしの頭をポンポンと叩くと、そのまま去って行った。


この間、蓮君はずっと黙ったままだった。

何も言わず、プイとあたしから視線を外すと自分の部屋のドアに鍵を挿した。

ガチャガチャという金属が擦れるような音が静かな廊下に響く。

あたしはまだ呆然としたまま、大輔君の部屋の前で立ちすくんでいた。


「んなとこ突っ立ってないで、とりあえず入ったら?」


蓮君は感情の読み取れないような表情でそう言いながらドアを開けて、あたしを促した。


部屋に入ると、蓮君は荷物を床に乱暴に落とし、キーケースをテーブルの上に放り投げた。


――なんか、機嫌悪い?


どうしよ……。

やっぱ突然、用もないのに来ちゃダメだったのかな。

迷惑だったのかな?


あたしはおずおずと部屋の真ん中まで進むと、いつもの定位置であるテーブルの前に腰を降ろした。


「お前、ずっと大輔の部屋にいたの?」
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