『叶えたいこと』
勇気と引き換えに

叶えたかったもの

 ギィィィ…
 重たい、屋上のドアを開ける。
 冷たい風が頬を撫で、夕日のオレンジが目に飛び込んでくる。
 
 「やぁ」
 「何時来ても、いるのね」
 「僕の、好きな場所だからね」
 「…そう」

 何か、言わなくちゃいけない、そう心で念じて何かを聞こうと思うのに、喉から声が出てこない。
 
 妙な沈黙が、屋上を包んだ。

 「そういえばさ、僕、君の名前、聞いてなかった」
 
 急に彼が口を開いた。
 
 「友子。あたしは、君塚友子」
 「友子…いい名前だね」
 「お母さんが、友達が多くなるようにってつけてくれたの。今は、名前負けね」

 言って笑ってみたが、あたしの声は外の空気に吸い込まれて行ってしまった。

 「友子は夢、叶えられそう?」
 「え?」
 「最近は、学校も楽しそうだよね。友達、作れそう?」
 「…難しいかもしれないけど、頑張ろうって思う」

 素直に答える。
 彼は嬉しそうに「ありがとう」って笑った。
 
 「僕の夢、叶った」
 「叶った?」
 「うん。友子のおかげで叶った」
 「あたしの?」
 「そう。僕の夢はね…」

 一呼吸置いて、遠くの夕日を眩しそうに眺めながら、彼は自分の夢を話した。
 それは遠い昔、自分が果たせなかった夢。
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