いちえ



「…ところでさ、思い出したわけ?」


「…えっ、何が?」



思わず何の事だろうと思い、顔を上げた。


それと同時に、胸の鼓動が急に早くなる。


ドキドキと高鳴る胸を、抑える事もできない。


瑠衣斗の瞳が、じっと私を見ていた。



「はあ……思い出す努力してんのかよ〜」


「……あ…」



してる!!けど分かんないんだもん。



呆れたような顔をする瑠衣斗に、何も言い返せなかった。



思い出せないのは確かだし、瑠衣斗の顔を見ているとうまく言葉が出てこない。



「んじゃ、思い出したら好きな奴教えてやるよ」



そう言いながら笑って言う瑠衣斗の言葉に、全身が拒否反応をおこすように痺れる。



そんな事、聞きたくないよ……。



でも、そんな思いとは裏腹に、瑠衣斗は言葉を続ける。



「期限付きだけどな。俺、そいつに告っちまうかもだから」





笑って言う瑠衣斗の表情は、本当にその人を思っているんだと分かった。


優しく笑う瑠衣斗の瞳の奥には、その人が写っているのだろうか。




私は、るぅにどう写ってる?




るぅの心の中に居る、名前も顔も分からない人に、私は嫉妬している。


気持ちがグチャグチャで、この気持ちをどうすればいいのか分からない。




慶兄……私、いきなり挫折しちゃうかもだよ。


頑張りたいけど、どうしようもないのかも。




胸を詰まらす息苦しさは、いつまでも治まる事を知らない発作のようだ。



その瞳の奥を覗けたら、きっと楽に呼吸もできるかもしれないのに………。
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