いちえ



モヤモヤしていた物が、すうっと消えていくようだ。


今感じている温もりが、瑠衣斗の物だと思うと、不思議と気持ちが落ち着いてゆく。


トクトクと脈打つ鼓動に、胸が甘く切なくなる。


このまま時間が止まればいいのに……。



そう思った所で、急に恥ずかしくなってきて打ち消した。


そしてやっぱり、瑠衣斗の気持ちも分からなかった。


私の事をどう思っているのか。


好きな人居るんだよね?



寝ぼけてその人と間違えて……なんて、そんな理由だったら、素直に傷付いちゃうよ。



すっごく辛いよ。



私の胸に触れていた手を、そっと解いた。


両手で包み込むようにして、目の前で大きな手のひらを見つめた。


おっきくて、指が長くて、骨ばってゴツゴツしてて、太い血管が浮きだっている。



生命線……長っ。


あ、指紋渦巻いてる。

へえ〜…頭いい訳だ。



普段なかなかじっくりと見る機会もなかった。


なんで、思う存分観察しちゃおう。




そんな事を考えながらも、やっぱり引っかかる物は引っかかる。


魚の骨が喉に刺さったように、気になってチクチクして、物が飲み込みにくい。



今の私は、受け入れにくいんじゃなくて、きっと受け入れたくないんだ。




現実と言う、逃れられない辛さを。
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