いちえ



「そんな所でいいのか?」


「うん…?」



そんな所って言われても、他に思い付かないし……。


それに、るぅが通ってた学校も見てみたいし。


思ってる事なんて絶対に言えないけれど、2人で過ごせる事にも胸が弾む。


「ま、とりあえず明日行ってみるか」


「うん。楽しみにしてる」


自然と緩みそうになる頬に、力を入れて食事を済ませた。



少し浮いているままの気持ちは、私を不思議な程穏やかにさせる。


その反面、心の片隅に居座るように、何か重いものがどっしりと固まっている。


それは、時間を重ねれば重ねる程、その存在感を主張するように意識をそらされてしまうようで。


それが何か、気付くまでもない。私はいつも、気付かないふりをして目をそらしてきたんだ。


「あ〜…また降ってきた」


「もうじき梅雨も明けるんじゃね?」



屋根を賑やかにする雨音は、湿った空気を徐々に運んでくる。


地面を鳴らす音に、心が分かりやすい程に影ってくるようだ。


季節はもう、8月を目前にしている。

少し長い今年の梅雨は、私をいつもよりも長い期間憂鬱にすると同時に、何か攻め立てるように感じてしまう。



「ももちゃん?顔色悪いけど…体調でも悪い?」


心配するようなおばさんの声に、いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げた。


「あっ…いえ、大丈夫です」



無理に笑顔を見繕ってみても、きっとひきつりまくっているだろう。


本当に私、どうしようもないな……。
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