いちえ
「あ、言い忘れてた!!慶兄も、明日から行くみたいだから」
「…慶兄も?」
「うん。だから多分一緒に行くよ!!」
慶兄の名前に、一緒ドキリとする。
いろいろと私を気遣ってくれて、結局最初から最後まで私に沢山のことを教えてくれた人。
頑張るって、約束した人。
そしてそれを、応援してくれた人。
何となく慶兄の名前を口にした後に、瑠衣斗の様子が気になってしまう。
そんな私は、やっぱりズルくて嫌な女なのかもしれない。
「じゃあ…みんなにも伝えておくね」
「うん!!じゃ、またねえ!!」
元気な美春とは対照的に、何となく気分が陰る私。
何とも言えない感覚に、胸がモヤモヤとしてくる。
そんな自分が、嫌でたまらない。
「美春達、明日来るって?」
通話の切れた携帯を手にディスプレイを見つめていた私は、宗太の言葉にハッと顔を上げると、慌てて言葉を探した。
「あ…あ、うん。慶兄も来るみたい…」
どっ…動揺してるのバレちゃう。てゆーか、しっかりしろ自分!!
何となく瑠衣斗の顔も見れないままにそう言ってはみたものの、顔に出ているのが自分でも分かる。
「あら、慶衣も帰ってくるって?」
「えと…間接的になんですけど、明日友達と一緒に来るみたいで…」
何やら雑談をしていたおばさんが、慶兄の名前に嬉しそうに反応する。
私の気持ちを知ったら、おばさんもおじさんも…るぅも、どう思うのかな。
慶兄…こんな事考えちゃって、ゴメン。
そして私は、みんなに対して、勝手に負い目を感じてしまうのだった。