空色パステル

―卒業式



―――3月13日


「…寺脇 拓弥」

「はい」


桜の蕾が少しずつ花開こうとする頃…

あなたはここから今、旅立とうとしていた。






卒業証書を受け取る後ろ姿。

もう拓弥のこの制服姿を見ることはないのだと思うと、不思議と涙が零れた。

必死に流れ落ちる涙を抑える。


でも、壊れたあたしの涙腺は止まらずに次から次へと溢れ出す。




拓弥の背中をじっと見つめる。

涙が零れないように拓弥を見つめる。




『―卒業生合唱…仰げば尊し』


体育館にアナウンスが響き渡る。




それを合図に卒業生は立ち上がって椅子を在校生側に向ける。


拓弥の顔が見えた。





♪~…

仰げば尊し
わが師の恩

教えの庭にも
はやいくとせ

思えば いと疾し
この年月

今こそ わかれめ
いざ さらば


朝夕 なれにし
まなびの窓

ほたるの ともしび
つむ白雪

わするる まぞなき
ゆく年月

今こそ わかれめ
いざ さらば


…~♪



アカペラで歌った卒業生。

ピアノの伴奏に頼らないで歌いきった卒業生。


歌の上手さより、
卒業生の涙があたしの涙を誘う。




『―…卒業生は退場してください』

別れのアナウンスが流れた。





パチパチパチ……


ねえ…どうして行っちゃうの?

あたしはまだここにいるよ?


あたしを残していなくならないで……




『―…1組』

とうとう拓弥のクラス。


いやだ……

お別れだなんて嫌だよ……




溢れ出す涙が止まらない。


抑えても抑えても、涙は流れる。




拓弥があたしの横を通る瞬間…




『ガンバレ………大好き』




と小声で言い残して歩いて行った。







あたしからも言わなきゃ……
言い残したことたくさんあるんだよ?






拓弥………ガンバレ……!!









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