プライダル・リミット
「そ、そうですよね。きょ、今日は気分的に遠回りをして帰りたいなぁなんて」
「ふ~ん。じゃあ好都合だ」
(な、何が!? 何が好都合なんだよ!)
「ちなみにそのワラビから吉祥寺までってどのくらいかかるん?」
(吉祥寺!? 何? 吉祥寺って! 今から行く気? 連れてかれるの? ラチられるの? 好都合とか言ってたし! イヤだぁ!! ていうか、蕨からの時間なんてわかんないよ)
「い、1時間くらい……ですか?」
「ですか? って聞いてどうすんだよ! 俺にわかるわけねぇじゃん」
「そ、そうですよね。1時間半かな」
「よしっ、じゃあ決まりな。これからいきつけのカフェに行くんだけどお前も付き合え。今日は遠回りしたい気分なんだろ? 帰りの1時間半くらいたいした時間じゃねぇよ。なっ!」
(裏目ぇぇぇ!! その場凌ぎの言い訳で自ら逃げ道を塞いでしまった。なんのための蕨駅だよ! そもそもコイツ、僕がどこに住んでいたって吉祥寺に連れていく気だったんだ。傍若無人! 僕の思考を返せぇぇぇ!!)
「オイッ! 行くのか? 行かないのか?」
「あ、は、はい」
(行くのか? 行かないのか? “行かない”選択肢もあるってことか? ならばここはハッキリ断らなければ……)

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