小悪魔は愛を食べる

「イチの口の中、あったかいね」

「お前のが冷てーんだよ」

「そう?じゃあ、雪とどっちが冷たい?」

雪?そうだ、雪に似ているのだ。芽衣とのキスはまるで雪に口付けたみたいだった。
答えをもらって、すっきりしたところで、壱弥が緩くかぶりを振って言った。

「どっちもどっち。ほら、頭からお湯かけるから立って後ろ向いて」

「はーい」

頭の天辺から爪先を流れて、排水溝へ吸い込まれていく湯を眺めながら、芽衣の裸に全く欲情を感じない自分が不思議だった。
愛しているのに。こんなに愛しているのに、どうして欲を感じないのだろうか。
男としてどこか欠陥があるように思えて仕方なかった。

顔を上げて芽衣の後姿を見遣る。芽衣の体は実に美しかった。
肌は全体的に白いもち肌で、どちらかというと肩はなで肩。胸と尻が小振りなのを本人は悩んでいるようだが、華奢で細く小さい芽衣にはこれくらいが丁度いい。
長い髪が湯に濡れて、それが瑞々しい薄い皮膚に張り付いているのがどこかの絵描きが描く裸婦画みたいに美しかった。

しかし、その綺麗な後姿にはたった一つだけ、消えない傷がある。

辛うじて髪の届かない腰から尻にかけた中間部分。
白い皮膚よりもっと白く、まるで真珠かと見紛うばかりに白く輝く箇所があった。

つまり、それは火傷の痕。
芽衣の体には古い、古い、火傷の痕がくっきりと残っているのだ。

手を伸ばして触ってみる。
ツルツルとした滑らかな表面がよく女の子が使う豊胸パットにも似ていて、いっそ気持ちいい感触で、意外にも気に入っている。

芽衣が振り向いた。
少し眉を寄せて、「ちょっとぉ」と口を尖らせている。

「悪い、つい」

「ついじゃないよ。ばかマジばか」


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