小悪魔は愛を食べる
否定した芽衣の勢いで、机から英語の教科書が滑り落ちた。緩慢な動作でそれを拾おうと屈んだ壱弥と、真鍋の視線が交わる。
歪んだ口元とは対照的に、目が、少しも笑っていなかった。
この目を、真鍋は知っている。
芽衣をみる壱弥の目は、時々ふとした瞬間に、この色を帯びるのだ。
それはたぶん、好きだとか愛してるだとかそういうのを超えた、執着。恋愛とも、家族愛とも違う、まじりっけなしの純粋な執着。
「……とらねーから、んな顔すんな」
思わずこぼれた呟きはささやかで、壱弥の歪みが深まったことに気付いたのは、真鍋だけ。少女はまだ、無邪気にかわいらしく笑っていた。
なるほど。小悪魔だ。
意識の薄い場所で響く、チャイムの音が哀れだった。