小悪魔は愛を食べる
それに比べて、壱弥の本気はとてつもなく痛々しい。
見ているこっちが辛く苦しくなるような、どうしてそんなに可哀相な恋愛を選んでしまったのかと問いただしたくなるような、そんな哀れで惨めな本気の恋愛。
恋と呼ぶには苦々しくて、愛と呼ぶには穏やかな壱弥の本気は、きっと相手には伝わらないのだろうが、壱弥はずっと笑っている。
笑って、抱き締めて、好きだと全身で訴えて、ずっと傍にいると言う。
凛子はともかく、姫華は小学生の頃からずっとそうやって寄り添う芽衣と壱弥の関係を隣で見守ってきたのだ。
今更どうこう言うつもりは毛頭無いが、やはり芽衣は子供なんだとやるせなさを感じずにはいられなかった。
ねぇ、イチ。もしも芽衣が本気で誰かを好きになったら、アンタどうするつもりなの?
中学時代最後の日に訊いた問いは、答えをもらえないまま、日々だけが過ぎ去って、今に至る。
しかし、いつになればこの問いに答えが与えられるのだろうか。とは思わない。
きっと答えは、その時がこなければ永久に虚ろに漂う黒い靄のまま、深層に埋もれて誰にも触れられずに知られずに溶けてゆくのだろう。
「まーったく。芽衣もイチも中学の頃から成長と止まってんじゃないの?ぜんっぜん変わってねぇっつの。いい加減大人になったら?」
わざと明るく大袈裟に姫華が笑った。壱弥も「そうね。考えとくわ」と笑う。芽衣だけが「失礼だなー」と頬を膨らませた。
昔から何一つ変わらないところが芽衣の良い所であり、未だ過去に縛られてどこへも行けないという証のようで。くそったれ。と心の中で姫華が嘆く。
芽衣と壱弥を見て強がった姫華の視線の切なさに、凛子が目を伏せた。