小悪魔は愛を食べる
「芽衣、腹減っただろ?なんか出前とろっか。何がいい?」
無駄に広い玄関で靴を脱ぎながら壱弥が問うと、芽衣は小さい声で「ケンタッキー」と答えた。
食欲はあるんだとほっとした。
芽衣が再びガチャリと音をさせて鍵を掛け直すのを確認し、リビングのドアを開ける。
「イチ」
声と同時、背中に柔らかくて温かい感触がぶつかるように張り付いてきた。
死角を作っている自らの腕を上げ、腰にしがみついている芽衣の姿を視界に映して壱弥は嗤った。
静かに、悪辣に、嗤ったのだ。
俺以外を選ぶなんて許さない。
この感情を独占欲と呼ぶのなら、その欲とはなんて醜く爛れた穢れなのだろうか。
膿んだ傷口から腐っていくような、どうしようもない欲。
愛しいはずなのに、誰かのものになるのなら、いっそ、めちゃくちゃに傷つけてぐしゃぐしゃにして誰にも見せたくないと思うのは、やはり人の性なんだと。
視界が暗転するような気持ちで壱弥は歪んだ口元をきつく結んだ。