小悪魔は愛を食べる

真紘と紗江子の息子である壱弥だが、彼は容姿も性格も極端なほどに真紘に似ている。

それは紗江子に似ている部分を探すのが困難なくらいで、時々紗江子が寂しそうにちょっとは私に似てくれても良かったのにと嘆くのが可愛らしかった。

その真紘の笑顔に、芽衣が飛び付くように抱きつく。

高価な着物に花の匂いがつんとして、きっとこの人は何歳になっても加齢臭とは無縁の人なんだろうなと芽衣はどうでもいいことを思った。

父親を知らない芽衣は、真紘にとても懐いていて、当然、真紘も芽衣を可愛がる。

実の娘のように本当に可愛がる。

酔う度、壱弥に『芽衣ちゃんとお前が結婚したらいいのに』と溢すのは、たぶん本音だろう。

真紘は芽衣を本当の娘にしたいのだ。きっと、紗江子も。

「さ、芽衣ちゃん。美央ちゃんが奥で待ってるから一緒に晩ご飯にしよう。ああ、そういえば後で紗江子さんも来るって言っていたよ。帰りの時間は心配しなくてもいいね」

「最初からしてないっつの」

「なんだ。壱弥はまだ反抗期?ちょっと長いんじゃないか」

「違うの。イチはねー、反抗期なかったんだよー。いっつも優しいよ。でも真紘パパがイチのこと放っておくから、拗ねてるの」

「壱弥…しっかりしてるから大丈夫かと思っていたんだけど、やっぱり寂しかったんだね。おいで、壱弥も抱き締めてあげるから、さぁおいで」

「マジうぜぇ!」

するりと伸びてきた男のしては線の細い手を壱弥が小気味良い音をさせて叩き落とす。だが真紘は気を悪くするでもなく、仕方がないなと言外に苦笑して踵を返した。

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