青春ｉｎｇ

「何、どうしたのなな姉。」

「ううん。美隼、しばらく見ない間に男らしくなったよね。彼女居ないの？」

「事務所に禁止されてんの。とりあえず、卒業するまでは恋人作んなってさ。」



　多感な高校生には厳しいんじゃないの、となな姉。でも、それは仕方ないことだと思う。昔ウチの社長が所属タレントを守るために考案した、苦肉の策らしいから。

　ある時、ウチの事務所にトップモデルが居た。彼女には仕事を始める前から一般人の恋人が居て、それを隠していた。長年の付き合いがあって波長の合う二人には、マスコミの目を欺くのも比較的簡単だったとか。だけど、それも長くは続かなかったらしい。

　お忍びデートの写真が週刊誌に暴露されると、一部、しかしかなり多くのファンから嘆きの手紙が届くようになった。どうやら彼らは、裏切られたと感じたらしい。彼女は“大切なファンを傷付けてしまったから”と事務所を辞め、最愛の恋人とも別れた、ということだ。この話をなな姉と真奈瀬にすると、二人共が苦い顔をした。まぁ、当然だろうな。

　下手に妹と一緒に登下校したらマズイんじゃないか、と気の毒そうな顔のショートボブの女性。瞬間的に、小さな針が俺の胸を刺した。