青春ing
 本心とは逆のことを言って相手を奮い立たせるのが、昔からなな姉のやり方だ。はっきり言われたことはないけど、多分俺が真奈瀬に抱(いだ)いている思いにも気付いてるんだろうな。そうじゃなければ、こんな気味の悪い笑みは浮かべない筈だ。



「……なな姉、気持ち悪いんだけど。」

「うわ、何こいつ!失礼ね。
……そういえば、まなはまだ彼氏できないわけ?私の妹の筈なのにおかしいわね。気になる子くらい居るんでしょ?さっさと告白しちゃいなさいよ。」



 さりげなく、自賛に俺への嫌がらせを織り交ぜたなな姉。舌打ちしそうになるのを堪えたら、ショートカットの女が“ざまあみろ”とばかりに鼻で笑う。おい、覚えてろよ。



「そ、そんなこと言われても!告白なんてできないよぉ……」

「何よ、好きな子居るんじゃない。お姉様に教えなさいよ。」

「お、お姉ちゃんの知らない人だもん!ほっといてよ!!」



 盛り上がる石川姉妹は、俺の存在を完璧に無視している。え、何。こいつ好きな奴居んのかよ。

 何だ……じゃあ“俺の役”は、最初から一つだけだったんだ。そう思ったら、悩んでいたのが酷く馬鹿らしくなった。
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