【実話】ありがとう…。
たかさんの所に行かなきゃいけないの。ごめんね…」


朱羅は悲しそうに、

「みゃーん、みゃーん」

と鳴き床へ降りた。


たかさんの家を後にし、急いでまた、バスに乗り込んだ。


雪も降り始め、地面がどんどん白くなっていく―。


帰宅時間と重なり、道も渋滞している。


病院は直ぐ目の前にあるのに…。


時計を見ると、5時55分。


私の焦る気持ちと裏腹に、中々動かない車。


5分後、やっと動き出し、病院へ急ぐ。


エレベーターに乗り、お母さんの所に戻ると、お母さんが泣き崩れている―。


「お母さん…?」



「…………」

それに親戚が気付き、

「たか…たった今、5時55分に亡くなったよ」



「えっ…?」

私が時計を見た時間だ。

持っていた荷物がバサリと落ちる―。


立っていられなくなり、その場に座り込む。


「たかさん…」



「これから、処置して終わったら、霊安室に来るみたいだから」



「………」


気が狂いそうな位悲しいのに、涙ひとつ溢れない。



人って、悲し過ぎると涙も出ないんだね……。




暫くして―。


「望?」

お母さんが呼んでいた。


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