落日
マンションにやって来た私を、聡は何も言わず、ただ抱きしめた。
私も抱えている不安をぶつけるようにして、それに応える。
無言のまましばらく抱き合ったあと、私から身体を離しながら聡は言う。
「何かあったのか?」
「……社長室に異動になったの」
「え……」
僅かに、聡の顔が歪む。
しかしそれは、見間違いかと思うほど本当に一瞬のことで、聡はすぐに笑った。
「すごいな。秘書ってことだろ?」
「……うん」
「何かあったのかと思ったけど……、吉報じゃないか」
聡は興奮した様子で、もう一度、私を腕の中に包み込んだ。