落日


社長室に異動になったお祝いだと言って、その日はフレンチレストランに行くことになった。

聡と一緒に外に出ることはほとんどなかった。

休みが合わないし、私が休みの週末、聡は朝から晩までカフェで仕事をしている。


次第に暗くなり始める空のした、一緒に肩を並べて歩く。

それは素直に嬉しいけれど、異動の一件がどうにも私の心を曇らせる。


「……依子なら大丈夫だよ」


事情を知らない聡は、私が仕事に対して不安を抱えているのだと思っている。

ウェイターが給仕した黄金色のシャンパンを一口飲んだあと、私は深く呼吸をして聡に切り出した。


「……彼の、お母さんなのよ。社長は」

「彼? 俺の前に付き合っていたっていう?」

「そう」


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