落日


何もかもを失った気分だった。

携帯電話のアドレスから、聡の名前を消すことができない。


――翌日、出勤した私は社長から呼び出しを受けた。

社長室の一角にあった、空っぽの鳥篭はいつの間にかなくなっていて、その残像を眺めるようにして、社長は言った。


「私の燕が帰って来たわ」


腹立たしいとか、悲しいとか、そんな感情は沸き起こらなかった。

沸き起こる気力さえもない、と言う方が正しいのかもしれない。


「……誠司と引き離すことが目的なら、このまま聡と一緒にいさせてくれても良かったのに……」


上機嫌で微笑む社長に、私は低い声で思いの丈を語る。

けれど社長は、それを跳ね除けた。


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