落日


「――なにか、聞いていない?」


その日、社長室に私を呼び出した社長は、白い封筒を机に叩きつけ、険しい顔でこちらを睨みつけた。

叩きつけられた封筒の表には、【退職願】と達筆な字で記されている。


「誠司が……月島を辞めると言って、今朝これを私に渡して来たの」

「……誠司が……?」

「新しい就職先も見つけたんですって。依子さん、あなた、何か知っているでしょう?」


月島グループから去ること、新しい就職先が決まったこと。

私は誠司から何も聞いていなくて、いま初めて知った。


黙り込む私に、社長は顔を歪ませながら言い放つ。


「月島を潰す気? あの子は次期後継者なのよ!?」


肩で大きく呼吸しながら、社長は、誠司が渡したという退職届をビリビリに破り捨てる。


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