落日


まるで、駆け引きだ。

聡の言葉に甘えて御馳走になれば、同時に、聡の連絡先を知ることができる。

拒絶して、強引に払ってしまったら、それは知ることができない。


考える間もなく、私は財布をバッグにしまったあと、ゆっくりと手を差し出した。


「お言葉に甘えさせていただきます」


聡はにこりと笑い、ユーロ紙幣を手渡しながら言った。


「ありがとうございます。御連絡、お待ちしております」




カフェを出てすぐ、外で待っていた香織から執拗な追求を受けたのは言うまでもない。

最初、私はいつものように「何もなかった」と答えたけれど、しばらく考えて、決断を下した。


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