落日
再会したばかりなのに、いきなり相手の家に行くなんて。
着いていくべきなのか、頭では迷っているのに。
私の足は聡の歩調に合わせ、勝手に前へと動き始めた。
「依子に渡したいものがあってさ」
「なに? 渡したいものって」
「それは着いてからのお楽しみ」
知りたがる私に、もったいぶってみせる聡は楽しそうな笑顔を零す。
その笑顔につられて、口を尖らせていた私も、ついほころんでしまう。
聡は私と同じ一人暮らしで、住んでいるマンションは私が住んでいる所とは正反対の方向にあった。
カフェからさほど遠くなく、歩いて行くのに苦にならない距離。