落日
窓側の席に座っていた私は、掃除の行き届いた窓ガラスに、何度も自分の顔を映して確認した。
――大丈夫。今の私は、幸せに満ちている。
窓ガラスに映った自分の顔を見ては安堵し、誠司との話に没頭する。
私と誠司に挟まれたテーブルの上には、挙式のスケジュール表とパンフレット。
旅行会社のカウンターで見たときは、そのなかにヴェッキオ宮の写真が掲載された資料もあった。
でも、いま私の目の前には、私が望んでいたものは何ひとつない。
『では、ヴェッキオ宮での挙式はキャンセルですね』
『そうですねー。市庁舎での式ってのはしっくりこないんで』