ロ包 ロ孝 3
 そこには大勢の人いきれが思惑と戸惑いの中、囁き声や怒声と共に渦巻いていた。



「ようやっと来たか。既に刈られてしもうたかと思ったぞ、喜八」

「喜八様!」「綾乃、梅」「良かった良かった」「ご無事でらっしゃった!」



 切り立った崖に出来た裂け目は、奥へ進むとかなり広さの有る洞窟になっている。皆が『窖(アナグラ)』と呼ぶこの鍾乳洞が高峰忍びの隠れ家だった。



「申し訳ありません、父上。わたしの不徳の致す所で……」

「違います頭領! きや兄ぃ、いや喜八様はあたいの事を気に掛けてくだしゃったから……」

「ははは綾乃、慣れない物言いはせんでよい。ともあれみなが無事でなによりじゃ」



 綾乃の拙い言い間違いに少し和んだその場だったが、頭領である高峰喜政が一声発すると水を打ったように鎮まり返る。



「しかし皆の者!」



 鍾乳洞の奥にあつらえられた玉座に腰を据え、喜政は家臣達を見回した。



「ぬし等も知っての通り、我等が蠢声操躯法は甲賀の里には歓迎されなかったようじゃ」

「あやつ等はやっかんでいるだけにございます」

「それもある。しかし望月出雲守(モチヅキイズモノカミ)様から退けられたとなると、我等には為す術もない」

「しかし! 大首領と言えど寄合の総意が無ければ我等に手は下せぬ筈。惣掟(ソウオキテ)を破った訳でもない我等を刈るなど……」

「うむ、結果寄合も我等に味方してくれなんだという事じゃ」

「しかし何故甲賀の里を追われねばならぬのですか」「そうだ! ここは我等みなの里!」



 各々が口々に不平を漏らしたので、只でさえ声の響くこの洞窟は騒然となっていた。


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