恋舞曲~雪の真昼に見る夢は…~

オフィスの入り口に知らない中年男が立っている。契約に来たお客さんだろう。

担当の社員とお客さんが応接室へと向かい、それに続いて課長も向かう。

「間宮さん、お茶を頼む」

「はい、ただいま」

課長に言われたあたしは給湯室へと向かうと、すぐにお茶を用意して応接室に入った。

「失礼します」

あたしがそれぞれの前にお茶を置いていると、まだその途中だというのに、すかさず課長が次の用事を言いつけてきた。

「間宮さん、この書類をそれぞれ1部ずつコピーしてくれ」

「分かりました」

部屋を出てコピー機へと向かったあたしは、書類をセットしてスタートボタンを押すと、「ハァ…」と大きなため息をついて、なにげに窓の外へと視線を向けた。

「雪…」と思わずつぶやいてしまう。

別に今年、東京に降る初めての雪というわけではない。

積もりそうなほどの大粒の雪でもない。

さして珍しくもない、地面に落ちた瞬間アッという間に溶けてなくなりそうな小雪を、ただぼんやりと見つめ続けるあたしがいた。
< 89 / 227 >

この作品をシェア

pagetop