果物ナイフが折れればいい
愛想笑いを浮かべられるようになった。ほんの一瞬で頬の筋肉を持ち上げられるよう反射もついた。

鏡を見ながらそれをやると、僕というヤツは人懐っこそうに前歯を見せていたし、自分でも、いい顔をしていると思った。そこに人がいると想定して、こんにちはと発音してみる。

するとどうだろう、人懐っこそうな笑顔の僕は、とても『できた』風に挨拶をした。

鏡っていう三次元の模倣犯の中にいるのは間違いなく僕であるのに、さあどうしてだかわからないが、認めたくないという気持ちが鯉の口みたいにゆっくり呼吸をしている。

今そこで、人懐っこそうに笑って挨拶したのは、僕を騙る偽者だな?

わかってはいる。その笑顔を見せているのは僕だし、そんな僕はこのまま人と話せばどれだけ相手の心証をよくできるかなんて、容易に脳の集積回路が答えを出してしまっている。

多角的、平均的、一般的に見ても、それは『できた』風なもので、だからそんな笑顔を作れる僕は、この三次元の模倣犯に花丸をくれてやらないといけない。お前の笑顔はよくできているね、と。

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