果物ナイフが折れればいい
だけど、そんなことを思えば思うほどだ。僕は本当はそんな人間じゃあないんだ、こんな笑顔を浮かべ、人に好かれる流暢な言葉遣いじゃないんだと、心のどこかで錆びたナットがボルトと接着して、さらには硬直してしまうような息苦しさを覚えてしまう。

絞まっていくし締まっていく。ご覧よ。鏡に映る僕を。こんなにも歯を見せて、つまりは口を開いているのに、気管の辺りはピアノ線かなにかでハムのように縛りつけられているんだぜ。息苦しくないはずがない。

それでも僕っていうヤツは笑っているんだ。それってつまり正常じゃないってことだろう。

だけどさ、正常じゃない僕を、そしてこの笑顔を、みんなは褒めてくれる。清々しいとか爽やかだとか、自分の主観で僕の笑顔に代名詞を与え、この頬を吊り上げた仮面をセメダインで貼りつけてしまおうとする。

そうか。それなら僕は仮面を被ったままがいいのか。いいや、本当はそんな質問する前から、わかってはいるんだ。こうして人当たりよく、差し障りなくだれかと接することのできるスキルがあるのなら、それを存分に利用して、他人の心に踏み行って、僕っていう人間を知らしめてやれば、僕だって少しは気分が晴れる。
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