幻妖奇譚
「きゃあっ!?」

 カシャン、と音を立て携帯が落ちる。

 その音に一瞬我に返るヨシエ。チエの姿が見えない事に気付く。

「チエ?……チエッ!! 何処!?」

 裂傷だらけのアケミを壁にもたれさせ、教室に入って行く。

「!!!?」

 電気の消えた教室。夕焼けに照らされ、逆光になった窓にシルエットが浮かんでいる。

「……チエ?」

 一歩ずつ足を進めるヨシエ。

 逆光で顔はわからない。が、二つに束ねられた長い髪――

「チエッ!!」

 薄暗い教室内、机や椅子に進路を阻まれ、なかなかチエに辿り着けない。

「チエ……」

 何度も机に足をぶつけながら、ようやくチエの元へ着いたヨシエ。

 凝視するようにチエの全身を見回す。アケミと違い、傷はない。

「よか……良かった。チエ……ごめん! ごめんねぇッ!!」

 チエの無事を確認し、安心したのかチエに抱き付き泣きじゃくるヨシエ。









「!! ぐっ……!?」

 泣きじゃくっていたヨシエが急に喉を詰まらせる。
 ヨシエの首、ちょうど気管を塞ぐ形でしなやかな指が巻き付いている。

「!? チ、エ……!?」

 さっきまで目を閉じていたチエが、恐ろしい形相でヨシエの首を絞めている――!!


「な……で? チエェ……ッ」




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