幻妖奇譚
 先輩がそう告げると、彼女を思い浮かべうっとりしていた“乗り移った男”の表情が、次第に強張っていく。

『死、ンダ……? 嘘ダ……嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ嘘ダ……!!!!』

 “乗り移った男”は錯乱し、チエの長い髪の毛を振り乱している。

「……先輩? なんでそんな事知って……?」

 ヨシエの質問に先輩は――

「その“彼女”、あたしの姉貴がいるサークルの先輩だったの」

「え……!?」

「姉貴の部屋に来た、サークル仲間の人の話を聞いたの……。彼女につきまとう男をかばって、彼女の目の前で彼氏が……電車に撥ねられて、彼女がその後を追って自殺した……って」

『嘘ダ――――!!!!』

 “乗り移った男”が叫び、チエの体のまま窓から飛び下りようとした!!

「!!!!」

 先輩が寸前の所でチエの両足にしがみついた。

「ヨシ……エ!! 手を貸し、て!!」

 慌てて駆け寄り、意識のないチエの体を二人で引き寄せる。

「う……ん」

「チエ……?」

「……ん。……ヨシ、エ?」

 チエに乗り移った男はいなくなっていた。

「良かった! チエ……無事で!!」

 ボロボロと大粒の涙を流すヨシエ。

「なに? どうかしたの?」

 チエは何も覚えていなかった。

「ヨシエ!! アケミちゃんも無事よ!!」

 ふらふらと教室に入るアケミ。いつの間にか、無数にあった体の裂傷が消えていた――。



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