幻妖奇譚
『僕ヲ突キ飛バシタ、アノ男……。ク、クククッ……馬鹿ダヨ。自分カラ電車ノ前ニ飛ビ込ムナンテ……クククッ』

「な、に言ってるの……? あんたを助けようとしたんじゃないの!?」

「先輩?」

『ソンナコト、僕ハ知ラナイ……関係ナイ。……アノ男、電車ト線路ノ間ニ挟マッテタ。真ッ赤ナ血ガ出テ、滑稽ダッタ……ヒヒッ、ヒヒヒ』

 お腹を抱え、いかにも面白そうに大笑いする“乗り移った男”。

 ヨシエの背筋にゾクッと冷たいものが走った。コイツ、普通じゃない……。

『遠クニ……彼女ガイタ。泣イテタ……スゴクタクサン……。ダカラ、僕ハ彼女ヲ抱キシメヨウトシタ……。ケド……デキナカッタ』

 普通じゃない……。頭では“関わっちゃいけない”そう、わかってるのに、聞かずにいられなくなった先輩は

「どうして?」

 と、聞いていた。

『強イ力デ……引ッ張ラレタ。気ガツイタ時ニハ……研究室ニイタ……』

「研究室?」

『ソコデ……花ヲ作ッテイタ、僕ガ作ッタ薔薇……ニ、ナッテイタ』

『……彼女ニ、会イタイ……僕ガ守ル……』

「それは無理よ……」

 先輩が、チエ(正確には、チエに乗り移った男に)に否定した。

『何故? 彼女ハ……待ッテテクレテル! 僕ヲ待ッテル』

「……彼女は死んだわ」



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