幻妖奇譚

∽沙希 10歳∽

「はい。今、配ったプリントは“母親参観日”のお知らせです。五年生になって初めての参観日だから、お家の人にちゃんと見せるのよ」


 ……母親参観日、かぁ。

 担任の先生から配られたプリントを見て、落ち込んだ。

 母の日が近いからって事なんだろうけど、先生もちょっと気を遣って欲しいなぁ……。

「じゃあ、みんなのお母さんへの日頃の感謝を作文にしてもらおうかな。参観日の日にお母さんの前で発表してもらいます」

 クラス中からブーイングが起きる。

 その時、誰かが手を挙げた。

「はーい。質問です。お母さんがいない人はどうするんですかぁ?」

 声の主は笑いながらあたしの方を見る。


 ……光江だ。

 今まで違うクラスだった光江と初めて同じクラスになって、最近まで友達……だった。

「ああ、そうね……。じゃあ、ちょっと早いけどお父さんへ……」

「先生、それ変でーす」

 すかさず、光江のグループの由美子と、みちるが口を出す。

 焦る先生にみんなが、どうなんですかぁ?と口々に質問をして面白がっている。

 みんな気付いてないけど、あたしに対する嫌がらせなのは確かだった。

 結局、先生は『将来の自分の夢』と、テーマを変えた事で、その場をしのいでいた。




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