幻妖奇譚
『もしもーし?』

 受話器から聞こえるあたしの声に、必死に手を伸ばし助けを求めようとする光江。

「……す……て」

 “助けて”?
 まさか“助けて”って言いたかったの?

 ……あたしに助けを求めたの?

 ……さんざん馬鹿にした相手に助けを乞うの――?

「……ふざけるな、このクソ女」

 憎しみが……真っ黒い感情がどんどん湧き上がって来る……!!

「あんたなんか……あんたなんか、この世からいなくなっちゃえ!!」

 あたしがそう叫んだ時――突然、眩しい光が飛び込んで来た!!

 目を開けていられないほどの強い光――!!





 凄まじい轟音に近隣の家々から住人が顔を出す。

「じ、事故だ――!!」

「トラックが……公衆電話に突っ込んでるぞ!?」

 突然だった。サキに手を引かれ、電話ボックスの前のカーブミラーに間一髪であたしたちは逃れた。

 ……中にいた光江はどうなっているんだろう?

 しばらくして、誰かが通報したパトカーや救急車が到着した。

 運転していたドライバーは重傷は負ったものの奇跡的に生きていた。

 レッカー車が到着し、電話ボックスを押し潰していたトラックが移動された。

「……うっ!?」

 トラックの下敷きになっていた電話ボックスに目を向けたレッカー業者が即座に目を背けた。




< 69 / 96 >

この作品をシェア

pagetop