幻妖奇譚

∽沙希 16歳∽

「……付き合ってくれないか?」

「え……?」

 新学期が始まって、まだ暑さの残る9月――あたしは、クラスメートの中原 耕一(なかはら こういち)に告白された。

 ドキン、と胸が高鳴る。嫌いじゃない……どころか、彼を初めて見た時から心を奪われていた。

「…………の?」

「……関口?」

「あたしでいいの?」

 声が震える。16年間生きて来て、初めての経験……それも想い人からの思いがけない告白。

「関口じゃなきゃ……ダメなんだ」

 嬉しさで胸が張り裂けそう……。

「あたし……あたし、中原くんの事、好き……! 大好き!!」







「あ、あたしの家ここ」
「ん……」

 帰り道、繋いでた手が離される。

「ありがと。送ってくれて……」

 なんかまともに中原くんの顔が見れない。

「じゃあ……また明日。……沙希」

「あっ、うんまた明日ね!」

 後ろ手に振られた背中を見送る。

「……中原くん、行っちゃった……って、あれ? そういえば“沙希”って言った?」

 さらっと言われ、思わず聞き流しかけた。

「……きゃ~ッ!! 中原くんに名前呼ばれちゃったよぉッ!!」

 玄関先で何度もガッツポーズをする。

 関口 沙希 16歳

 人生初の彼氏が出来た――。





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