幻妖奇譚
「ただいま! 聞いてサキッ!! 今日はすごいニュースがあるのよッ!!」

 あたしは家に入るなり、父の寝室に向かい鏡に話しかける。

「お帰り、沙希。なあに、やけにご機嫌じゃない?」

 あたしと同じ顔のサキは鏡の中で応える――。

「あたしね……中原くんに、告白されちゃったぁ♪」

「中原くん……って確か沙希の好きな男の子よね? やったじゃない!?」

「うん♪ もう嬉しくって!! それからね……“沙希”って呼ばれちゃったんだ♪」

「あら? あたしだって“沙希”って呼んでるわよ?」

「サキはいーのッ!! だって中原くんだよ!? 別れ際にね……“また明日、沙希”って。また明日だよ!? 明日も中原くんと帰れるなんて、もう夢みたい!!」

「明日も、じゃないでしょ! これからずっと……でしょ?」

「……そっか、そうだよね、付き合うってそういう事だよね!? きゃ~♪ どうしよ~サキ~!?」

 昔からサキには、毎日必ず報告して来た。嬉しい事も悲しい事も……。

 友達やパパにすら言えない事だって、サキになら包み隠さず話せる。

「ただいま、沙希? 帰ってるのかい?」

「あ、パパ帰って来ちゃった……じゃあね、サキ」

「ええ……また話聞かせてね」





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