幻妖奇譚
「あの鏡との出会いは全くの偶然だったんだよ。パパはファミレス以外にも単発で掃除屋の仕事をしていた。孤独死した身寄りのないご老人の家の片付けが専門のね」

 パパが2杯目のコーヒーをカップに注ぐ。

「本来ならしてはいけないんだが、パパ達はめぼしい遺品を勝手に持ち帰っては修繕し、フリーマーケットで売りさばいては小金を稼いでいた。もちろん気に入ったものは個人で持ち帰ったりしていた」

「じゃあ……あの鏡は……」

 パパが力強く頷いた。

「そう……、その時に手に入れた。ただ、鏡の外枠は朽ちかけていたからかなり手を加えたけどね」

「どうして、その鏡を持って帰ったの?」

 立て続けに質問をするあたしに嫌な顔ひとつせずに丁寧にパパが答えてくれる。

「……呼ばれたような気がしたんだよ。鏡に背を向けているはずなのに視線を感じた――普通なら気味悪がって近寄らないだろうが、パパはその鏡が気になって仕方なかった。鏡に……もしも“魔力”と言うものが宿っているのなら、まさしく“魅入られた”のだと思うよ……」

「…………」

「鏡が手に入って、しばらくは何も起こらなかった……あの男が美沙を――傷つけるまでは、ね」




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