幻妖奇譚
「ママを傷つけるまでって……何をしたの?」

「……女性にとって、最も屈辱的な行為だ。寸前の所で助ける事が出来たけれど……それ以来美沙は心に深い傷を負ってしまった……!!」

 今まで穏やかに話していたパパが語尾を荒げた。

「悔しかった……出来ればこの手であの男を殺してやりたい、とさえ……。そんな時――鏡から声が聞こえたんだ……。“そんなに憎いなら殺してやろうか?”と」

「…………」

「その時はきっと、正気じゃなかったんだな……。鏡の中の声に導かれるまま、美沙からその男の写真を借り、殺人を依頼した」

「……その男の人は死んだの?」

「ああ……。壮絶な最期だったよ」

「パパは見たの? どんな風に殺されたのか」

「うん、美沙と買い物に出掛けた先でね、あの男が性懲りもなく現れた。その時、急にショーウィンドウが音を立てて砕け散った。ガラスはあの男目掛け全て突き刺さり、辺り一面を真っ赤に染めて絶命したよ」

「……ママは、鏡の中のパパが殺人を犯した事を知ってるの?」

「いや……。言ったって信じないさ。説明した所で、美沙にとってはただの鏡でしかなかったからね」




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