恋 時 計 ~彼はおまわりさん~
「大丈夫か?」
おまわりさんの腕の中で聴こえた小さな声が、何倍にも大きく私の心に沁みる。
深く頷き、ゆっくりとおまわりさんの顔を見つめた。
「良かった……」
不意に見せたおまわりさんの微笑み。
その一瞬が、心の奥深くで愛しいと感じる。
私は高鳴る鼓動を抑え、リングのネックレスのことを聞こうとした。
けれど、無情にも扉が音を立てて開き、おまわりさんは私から距離を置いた。
停車とともに、人の流れが押し寄せる。
待って! 今聞かないと――。
人の流れに逆らおうとした私は、足がよろめいてホームへと着いてしまった。
それと同時に、人の体が私を外へと追いやる。
待って! 待って――!
車両の中にいるおまわりさんが、どんどん離れていく。
おまわりさんに気づいてほしくて、何度も声を出そうとした。
けど、どうしても声が出なかった。
おまわりさんが、鋭い眼差しで車両の奥を見ていたから。
何かを追うように、ずっと見ていたから。