-アンビバレント-


あたしは小さな箱の前にしゃがみこんでいた。


いつの間に日がくれてしまったのか、カラスの声が夕焼けに響く。



プラスチックのその箱は、もう数えきれないほどの思い出が封印されていた。



思い出は所詮『思い出』な訳であって

未来でも今でもなく、過ぎ去ったはずの過去でしかないのに


それでもたまに過去に還りたいと思うときがあった。



そんな時はこうやって

あたしはこの箱をゆっくり開けて『思い出』の感覚を取り戻そうとする。


もちろんそれは取り戻せるはずなんてないんだけど

取り戻そうとする事で

今を受け入れようとしている自分がいる気がしたから。





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