-アンビバレント-
久しぶりに開いたケータイの画面にあった名前は
『月菜』だった。
もう年末だっていうのに練習があるのかと思って
一瞬フリーズしたけど、とりあえず出た。
「……もしもし?」
「香保さん!!」
月菜はこの寒い中外にいるようで
トラックの音が聞こえてくる。
「月菜?どうした?」
「実流さんのお父さん……っが」
「何?実流のお父さんがどうした?」
「昨日……亡くなったって…」
その瞬間
あたしの耳は全ての音を遮断した。
実流のお父さんが……
亡くなった?
『でもきっと大丈夫』
一昨日の実流の言葉とあの時の笑顔が
ふいに頭をよぎった。
「今から行くから」
あたしはそれだけ言って電話を切った。