【SR】メッセージ―今は遠き夏―

「ねえ。その場所、まだ覚えてる?」


何かのきっかけで、失っていた記憶が戻ることがあるという。

写真を見ても思い出せないのなら、現場に行ってみたらどうだろうかと考えたのだ。


幸い、有給休暇はまるまる残っていて、数日休むくらいはどうってことはない。

仕事も新人に引き継いだばかりで、一段落したところだった。


「ああ、なんとなく。でも、今もそこが残ってるかどうかまではわかんないよ」


少し困った顔で、繁人は頭を掻いた。


「いいの……。お店はなくても、景色とか匂いとか。

小樽の空を見て、空気を吸い込んだら思い出すかもしれないじゃない。

お願い、繁人。

あたしをそこに連れてって――」


もう後には戻れない。

失われた部分がはっきりするまでは。

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