今宵、月の照らす街で
最後に入った千鶴を連れてリビングに向かうと、先に入った直仁はソファの方向を見ていた。


その足元で剣一郎は膝をついて口をパクパクさせている。


―――あ…せぇじ…


こんな時間に二人の男女が部屋にいるのは、すごく誤解されやすい状況だ。


「明奈さん、なんで成二が?」


直仁が横になる弟子を指差して、予想通りの質問をぶつけてきた。


「毒を抜いてあげたのよ。さ、このコ起こしたくないから、こっちでイイ?」


動揺を見せたら、もっと誤解されるだろうと、明奈はちょっとそっけなく答える。


直仁は頷いて、うなだれる剣一郎をズルズル引きずりながら寝室に入る。


そんな光景を見ていた明奈を、千鶴がずっと見ていたようで、ちょうど二人の視線が重なった。


「毒って…負の事?強くなってたのは感じたけど、ちゃんと見てたのね」


「まぁ…一応、師だもの」


「ふふ、照れてるでしょ?」


明奈の返答に茶々を入れる。


「ほっといて…」


「はいはい」
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