今宵、月の照らす街で
ほろ酔いの千鶴の笑顔。


―――任務では誰にも見せる事はないだろうなぁ…


「なぁに?」


千鶴が髪を耳にかける。


「千鶴、キャバやってみない?笑顔が可愛いし。人気出ると思うな」


「馬鹿な事言わないでよ…私は華やかな舞台に立てないわ。凪家は静かに生きる血族だもの」


今度は、明奈の言葉に千鶴が照れたそぶりを見せた。


「ま、でも今日は男二人相手に真似事でもさせて貰うわ」


千鶴はそう言って寝室に入っていった。


明奈は冷蔵庫を空けて、缶ビールとかチューハイを何本か選ぶ。


よく考えてみれば、明奈が東京に住んでから家で他人と飲むのは初めてだった。


先程、成二が感情を見せるようになった事に、弟子の心の成長を目の当たりにした、と感じたが、いつの間にか明奈も変わっているのかも知れない。


「一人でやっていくつもりでコッチに来たのにね」


不意に一人で呟いて、お酒を手に寝室の扉を開いた。


リビングを振り返ると、成二が静かに寝息を立てている。


「おやすみ、私の可愛い愛弟子クン」
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